契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 翌日。鈴音のシフトは早番だ。
 午後六時過ぎに職場を出て、いつもとは逆方向に歩き進める。

 鈴音は早速、ホテルデリエへ向かっていた。

 今日の午前中早々に、忍がホテルへ電話をし、日取りの仮予約を済ませていた。

 たまたま約二か月後にキャンセルが出て、すぐにそこを押さえたと忍から連絡があった。そして、たまたま早番ということもあり、内金を払いがてら行くことになったのだ。

 約三十分後、洋風のモダンな建物の前で足を揃える。
 首が痛くなるほど高い建物を見上げ、「はあ」と感嘆の息を漏らした。

 カメリアの門構えの雰囲気は、例えるのなら神社のような厳かな空気を感じる。対して、デリエは表向きから煌びやかで華やかな雰囲気だ。キラキラとした照明だけで、そこが別空間のように感じられる。

 鈴音は心の中で『よし』と呟いて、ロビーへ足を踏み入れた。

(確か、ブライダルサロンは二階って言ってた)

 昼休みに忍と電話をしたときにそう聞いた。さらに、仕事中に梨々花と少し話した際に、少し前にブライダルサロンはリニューアルしてから、いっそう人気が出ているという情報を耳にした。

 そして、ブライダルサロンに到着すると、梨々花の噂通りサロン内の席は客で埋まっていた。五か所あるテーブルのうち、四つは使用していてプランナーも忙しそうだ。

 受付に目を向けるも誰の姿もない。
 鈴音がどうしようかと困っていると、ちょうど奥の扉からひとりの女性スタッフが出てきた。

「いらっしゃいませ。お待たせして申し訳ございませんでした」
「あ、いえ。ちょうど今来たところで……あの、今日電話しました黒瀧と申しますが」
「黒瀧様! お待ちいたしておりました。どうぞこちらへ」

 鈴音が名前を出すと、プランナーの女性は目を大きくさせ、笑顔で案内した。
 椅子に腰をかけ、改めて向き合うと、プランナーは綺麗なお辞儀をしてみせる。
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