契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「この度は、おめでとうございます」
「あ……ありがとうございます」

 他人に祝福されると、未だに戸惑いを隠せない。見知らぬ人にさえ、罪悪感を抱いてしまう。
 鈴音は良心が痛み、視線を落とした。そんなことに気付くはずもなく、プランナーはにこやかに話を続ける。

「お電話は当サロン責任者の黒川が承ったのですが、同じご予約日で担当している方がいらっしゃいまして……。大変申し訳ないのですが、黒川と私とふたりで担当させていただきたくお願いいたします」

 忍から男性が担当っぽいことも聞いていたため、少し構えていた。
 なんとなくだが、ブライダルサロンというこういう場では女性相手の方が離しやすそうだなと思ったためだ。

 しかし、今目の前にいる女性も担当すると聞き、安堵した。

「鈴原と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。なんでもご相談くださいね」

 しかも、年齢もそう変わらなそうで親しみやすい雰囲気の女性プランナーだ。
 鈴音は少し緊張が解れ、ようやく目を合わせることができる。

「ご新郎様はあのローレンスの次期社長だとか。よくヘアメイクスタイリストがローレンスのメイク道具を持参していますよ」

 愛嬌のある笑顔に、鈴音も自然と話ができる。

「そうなんですか。それはうれしいです」

 本当にうれしく思ったから、にっこりと微笑み返した。

 鈴原はテーブル上に置いてあったドリンクメニューを見せ、鈴音の希望を伺う。鈴音は「アイスティーを」と頼んだ。

 鈴原がほかのスタッフにドリンクをオーダーし、鈴音と再び向き合った。

「本日は、お式までの流れを説明いたしますね。二か月後のご予定なので、かなりスケジュールがタイトになるかと思いますが……」

 スケジュールが書かれた書類などをテーブルに広げながら苦笑する鈴原に、鈴音は深々と頭を下げた。

「はい。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いいたします」
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