契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「これが結婚式までの準備リストで、プラン表がこっちです」

 浴室から真っ直ぐリビングにやってきた忍に、鈴音がソファから立って資料を差し出す。
 まるで上司に企画書でも渡すような光景だ。でも、鈴音の心は別の緊張に侵されている。

(お風呂の後って、忍さんの色気が増す気がして余計にまともに見られない)

 鈴音はあえて手元を見ながら説明した。

「ああ。目を通しておく。そこに置いておいて」

 忍はそれを受け取らず、キッチンへ向かう。鈴音は言われた通りにテーブルに置き、何気なく忍の背中を見た瞬間ハッとする。

 キッチンには夜食とメモがそのままだ。夜食はともかく、メモは大した内容ではないものの、目の前で読まれるのは少し恥ずかしい。

 鈴音が「あっ」と声を上げ、忍の後を追い掛けるも間に合わなかった。対面キッチン越しに、忍がメモを手に取る姿が見える。

「あの……私、今夜は先に休んでるつもりだったので」

 もごもごと声をかけるけれど、忍はメモの文を目で追っていて返答はない。

「食事もただ多く作りすぎただけなので。いらなければそのままにしておいてください」
「いや。食べてないんだ。助かる」
「えっ」

 忍が鶏そぼろ丼を手にしてレンジに入れる。
 そんな行動も見慣れなくて意外だったが、声を上げてしまったのは別の理由だ。

 てっきり、星羅とは食事をしたのだと思っていた。ちょっと早めのディナーだったのかと考えて夜食を用意したというのもある。

 複雑な思いで作り置いたものだった。それが、食事をしていないということがわかっただけで、少し心が軽くなる。
< 187 / 249 >

この作品をシェア

pagetop