契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「あ、じゃあ、お味噌汁温めますか? あとは私がやるので座っていてください」

 鈴音がキッチンへ入り、テキパキと動く。忍は言われた通り鈴音に任せ、ダイニングチェアに腰を下ろした。

「披露宴と言っても、なるべく最小限のゲストで抑えようとは思っている。それと、もしも鈴音のご両親が今回のことを知ったときには、取引先へのお披露目パーティーだと説明する」

 忍が急に堅苦しい顔つきで言った。
 鈴音は初め目を丸くしたが、すぐに同じように真剣な面持ちで静かに返す。

「はい。それで問題ありません」

 温め終了のピーという高い音で忍から視線を外した。

 披露宴の目的は初めから理解している。けれど、自分の親がどう思うかまで考えるには至っていなかった。
 鈴音は両親の寂しそうな顔を想像し、唇を軽く噛んだ。

「親族の披露宴はやらないと言えば、親としては不満だろうが……」

 心を見透かされたようなタイミングで、忍が鈴音の背中に向かって声をかける。
 鈴音は熱くなった皿を両手で持ち、笑顔で振り返る。

「大丈夫ですよ。なんとかなります」

 事情を口にすることは一生ないけれど、離婚の事実は知られる。きっとそのとき、心の中で式を挙げていないことにホッとしてくれるかもしれない。

 視点を変えて気持ちをポジティブに変換し、気を取り直して食事を乗せたトレーを運ぶ。それでもなんとなく、忍の顔を見られなくて、瞼を伏せたまま「どうぞ」と食事を差し出した。

 忍はなにも言わず、テーブルの上を見つめるだけだ。

 鈴音はどうしていいのか困惑し、その場に留まる。やおら視線を動かしていき、忍の喉元までになったとき、彼が声を発した。

「全部オレのせいにすればいい」

 鈴音は衝動的に忍の顔を見る。
 彼は鈴音をまっすぐ見つめ、目を逸らすことはしなかった。そして、鈴音も同じく視線を交わし続けたまま。

 数秒後、口を開く。
< 188 / 249 >

この作品をシェア

pagetop