契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「で、どうだった? 人生初めてのブライダルサロンは」

 職場の社員食堂で梨々花がわくわくした表情で言う。
 鈴音はテーブルを挟んだ向かい側から前傾姿勢になる梨々花を見て苦笑する。

「なんか急にテンション違わない? この間まで『本当にいいの?』とか言ってたのに」

 梨々花は雑誌に取り上げられたときにも、神妙な面持ちで心配していたはずが、今や別人のように陽気な振る舞いを見せる。
 そのギャップに笑わずにはいられなかった。

 梨々花は目の前のパスタに見向きもせず、にんまり顔を向けてくる。

「そうなんだけど、鈴音見てたらなんかアリなのかなあって思ってきた」
「まあ、ブライダルサロンは担当者もいい感じの人でよかったよ。明日の休みは衣装合わせの予約もいれてて、ひとりで行ってくるよ」
「え? 明日!? ひとりで!? 私シフト通しだよー! 行けないー!」

 梨々花の乱れる心とは裏腹に、鈴音は淡々と返す。すると、梨々花が腰を浮かせる勢いで声を上げ、鈴音はさすがに狼狽えた。

「いや、別に付き添いはいなくていいし……」

 心底残念がる梨々花に、若干悪い気がしてしまう。
 けれど、これは建前の式。事情を知っているとはいえ、梨々花の興味本位で介入されるのも正直困る。

「だって、友達のウエディングドレス姿、まだ見たことないし! 興味ありすぎるもん!」

 まるで結婚前にする女子たちの普通の会話だ。

 もしもこれが、普通の結婚だったなら微笑ましい光景だと済む話。だが、鈴音は状況だけではなく心境のほうも複雑のため、作り笑いも難しい。
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