契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
翌朝は、珍しく忍が後から起きてきた。
無理もない。昨夜は相当深酒をしていたせいだろう。
昨日、柳多を見送って部屋に戻ってみると、深い眠りについていて、鈴音の呼びかけにも反応しなかったくらいだ。

「あ、おはようございます。具合は大丈夫ですか? コーヒーでも淹れましょうか」
「いや……。水がいい」

忍はぐったりした様子でソファに腰を下ろす。
鈴音は水をローテーブルに差し出すと、心配そうに見つめた。

昨日、デリエをあとにしたときに考えていた。

次に忍と顔を合わせたら、この家を出ていくと伝えよう、と。

けれども、昨夜は思いも寄らぬ出来事にそんな話ができる状況ではなかった。

そして今朝も、まだ忍は本調子ではないのがひと目でわかる。
鈴音は切り出すことを諦め、ただ気まずい気持ちを抱え、忍と同じ空間に立っていた。

「すみません。私今日早番で。もうすぐ出ますね」

具合の悪そうな忍を置いていくのは後ろ髪をひかれるが、仕事だから仕方がない。
それに、やはり長い時間ふたりきりでいると、いつどんな空気になるかわからない不安もある。

「ああ」

忍は瞼を閉じたまま、ひとこと答えた。

それからすぐに、鈴音は廊下から「行ってきます」と声をかけ、出社していく。
ひとりきりになった忍は、ようやく鈴音が用意してくれた水を口に含んだ。
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