契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「はあ……」

気怠いため息を吐いて、項垂れる。

昨夜のことは夢の中のことだったように、おぼろげだった。
それでも、借金がどうとかいうことくらいは微かに記憶に残っていた。

「なにをしているんだ、オレは」

感情の始末ができず、酒に逃げたことを自嘲した。
昨夜のことよりも、衣装合わせに顔を出した時のことのほうが鮮明に覚えている。

鈴音があんなことを言った理由が知りたい。

(だからって、問い質し方があるだろう)

忍は頭をがしがしと掻いて、天井を仰いだ。

――『既成事実を作れば約束を守らざるを得ないよな』

昨日はずっと、冷静さを欠いて酷いことを言ってしまった、と罪悪感を抱いていた。

謝罪したいという思いと、鈴音の本心に触れたいという焦りがぐちゃぐちゃになって、家に帰って顔を合わせるのを躊躇った。

少し頭を冷やす時間を持てば、きっと平常心で会話ができると思い込んでいたが……。

(時間が経てば経つほど、核心に触れられないなんて)

忍はゆっくり頭を戻し、テーブル上のグラスをしばらく見つめた。
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