契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
早番だった鈴音は、六時半には家に着いていた。

休憩直後に来たメールがなければ、直帰せずに適当に時間を潰して帰宅しただろう。
忍の気配が隅々に感じられる家にいるのがつらく感じてしまうから。

それなのに、早々に帰ってきたわけは、忍が今夜の夕食を頼んだためだ。
そして、メールの最後にはこう書かれていた。

【話がしたい】と。

鈴音は夕飯を作り終え、時計を見た。

(八時前。さすがにまだ帰ってこないよね)

「ふう」と息を吐き、ソファに浅く腰をかける。

忍の言う『話』は予想がつく。
それは、昨日自分が『披露パーティーなんて無理』と言うようなことを口走ってしまったことだ。

視線を上げ、広いリビングを眺める。

この家を出ていくと言うつもりだった。でも、昨夜柳多に啖呵を切った手前、自分勝手な行動で忍の足を引っ張るわけにはいかないと思いなおしていた。

同時に、柳多の言動も引っ掛かっている。

自分は忍のそばにいたほうがいいのか、それともいなくなったほうがいいのか。

柳多の行動が未だ予測できず、判断しかねていた。
ぐるぐると同じことを繰り返し考えていると、あっという間に一時間が経過していた。

すると、玄関から鍵が開く音が聞こえ、鈴音は弾かれたようにソファから立ち上がった。小走りで廊下へ顔を出す。

「お……おかえりなさい」
「ただいま」

今朝顔を合わせたときの忍は、二日酔いで相当辛そうな姿だった。比べて今は、いつも通りの彼だ。
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