契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
鈴音は感情が昂ぶり、やや声を震わせる。
「忍さんはあなたを裏切ろうとなんてしていません。ちょっと方法を変えるだけ。それは長年一緒だったあなたが一番わかるでしょう?」
柳多は握った拳すらも小さく震えているのに気づき、やっとまともに鈴音を見つめ返す。
「確かに。オレの目的は社長の失墜であって、社員を路頭に迷わせることでも……彼を追い詰めることでもなかった。申し訳ない」
深く頭を下げる柳多を見て、自然と頬が緩んだ。
ほんの一時、感情的になってしまっただけで、やはり本質は忍の兄貴分であり、支え合っている間柄なのだと確信する。
柳多のような頼れる存在が忍のすぐ近くにいることは、とても安心できることだった。
鈴音はいつしか力を抜いた手を手摺りに乗せ、空に浮かぶ白い雲を仰ぎ眺める。
「ところで、どうして私に話をしようと思ったんですか?」
さっき、会社の玄関で腕を掴まずに放っておけば、なにも知られることはなく自分と離れられたかもしれないのに、と思った。
わざわざ呼び止め、こんなひと気のないところで時間を割いて向き合ってくれたことは、なんだか認められた気がしてうれしいと感じてしまう。
柳多が即答できないのを見て、鈴音は自己完結する。
「ああ。そっか。もう関係なくなる人間だと、逆に悩みとか言えたりしますもんね」
きっと、罪悪感に苛まれて、懺悔したくて呼び止めたのかもしれない。
すべて吐き出して、一から忍と共に歩むために。
新たな目標のために。
(そう。私の目的も……彼の望みを叶えるためだった)
鈴音は自分が抱えているものも、柳多と同じものだと思っていた。
けれど、彼と自分は立場が違う。
忍の目標のために、柳多はそばにいるべきであって、自分は離れるべきなのだと改めて悟る。
澄んだ空気をいっぱい吸い込み、「ふー」と一気に吐き出し、顔を戻す。
「柳多さんも、お父様のように笑って仕事ができるようになるといいですね」
満面の笑みで言うと、鈴音は先に非常階段を降りて去っていった。
「忍さんはあなたを裏切ろうとなんてしていません。ちょっと方法を変えるだけ。それは長年一緒だったあなたが一番わかるでしょう?」
柳多は握った拳すらも小さく震えているのに気づき、やっとまともに鈴音を見つめ返す。
「確かに。オレの目的は社長の失墜であって、社員を路頭に迷わせることでも……彼を追い詰めることでもなかった。申し訳ない」
深く頭を下げる柳多を見て、自然と頬が緩んだ。
ほんの一時、感情的になってしまっただけで、やはり本質は忍の兄貴分であり、支え合っている間柄なのだと確信する。
柳多のような頼れる存在が忍のすぐ近くにいることは、とても安心できることだった。
鈴音はいつしか力を抜いた手を手摺りに乗せ、空に浮かぶ白い雲を仰ぎ眺める。
「ところで、どうして私に話をしようと思ったんですか?」
さっき、会社の玄関で腕を掴まずに放っておけば、なにも知られることはなく自分と離れられたかもしれないのに、と思った。
わざわざ呼び止め、こんなひと気のないところで時間を割いて向き合ってくれたことは、なんだか認められた気がしてうれしいと感じてしまう。
柳多が即答できないのを見て、鈴音は自己完結する。
「ああ。そっか。もう関係なくなる人間だと、逆に悩みとか言えたりしますもんね」
きっと、罪悪感に苛まれて、懺悔したくて呼び止めたのかもしれない。
すべて吐き出して、一から忍と共に歩むために。
新たな目標のために。
(そう。私の目的も……彼の望みを叶えるためだった)
鈴音は自分が抱えているものも、柳多と同じものだと思っていた。
けれど、彼と自分は立場が違う。
忍の目標のために、柳多はそばにいるべきであって、自分は離れるべきなのだと改めて悟る。
澄んだ空気をいっぱい吸い込み、「ふー」と一気に吐き出し、顔を戻す。
「柳多さんも、お父様のように笑って仕事ができるようになるといいですね」
満面の笑みで言うと、鈴音は先に非常階段を降りて去っていった。