契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
その頃、会社に残っていた忍は星羅と向き合っていた。

しかし、頭の中はさっき鈴音が『自分は不要だ』と言った言葉に否定できなかったのを後悔していた。

星羅はおずおずと部屋の中央まで歩き進め、上目で猫なで声を出す。

「あの、柳多さんに少し話を伺っています。私がなにかお手伝いできるならと思って父に相談したら、忍さんを支持するような話をしてくれて」

前々から星羅に好意を向けられていることには気づいていた、
だから、柳多がそれを利用して画策しそうなことくらいは想像がつく。

「そう。でも近いうちに、柳多がその話自体を訂正しにいくと思うよ」

忍は動揺もせず、冷静に返した。

きっと、鈴音と話をすれば、逆上しかけていた心が落ち着くだろうと思ったから。
口では説明できないけれど、鈴音は不思議な力を持っていると感じている。

「え? それはどういう……」

忍が思っていたような反応をしなかったため、星羅はそわそわとし、落ち着きなく毛先を撫でる。
忍は応接用のソファに腰を下ろし、星羅を見上げた。

「他人の力ばかりに頼っていてはだめだと気付いたってことかな」
「そんな! せっかく私……。で、でもじゃあ、あの子とはもうなんの関係もなくなりますよね? 今も本人が『妻じゃない』って断言してました!」

星羅は取り乱して声を上げる。
風向きが自分の方に変わったと自信を持っていたのに、まったく手応えのない結果に狼狽するばかり。

せっかくのグロスも、無意識に下唇を噛んで取れ掛けている。
そこに追い打ちをかけるように忍がハッキリ口にした。

「いや。彼女はオレの妻だ。彼女以外は考えられない」
「……っ、失礼します!」

星羅は矜持を傷つけられ、その場にいられなくて部屋を飛び出していった。

直後、柳多が現れる。
忍は目を大きくさせると、勝手に身体が前傾姿勢なっていた。

「柳多? 鈴音は大丈夫だっ……」

言葉が途中で止まる。
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