契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「これ、いつから?」
「さっき……電話が……。それから、今、何度も……」

肩を竦め、消え入るような声でどうにか答える。

鈴音は元々、人に迷惑をかけないように、甘えないようにしてきた。そのため、こういう場では、ついなんでもないように振る舞ってしまいがちだ。

震える指先をどうにか抑え、忍が手にしている携帯を返してもらおうと腕を伸ばす。

「す、すみません。着信拒否の設定してから寝ますか、ら……っ」

忍は携帯を引っ込め、作り笑いを浮かべて言う鈴音の手首を掴んだ。
吃驚した鈴音は目を大きく見開き、忍を見上げる。

「ひとりが怖ければ、そう言え」

直後、耳に届いた言葉は少し厳しい口調ではあった。が、弱っている鈴音は十分心を揺さぶられる。
けれど、どうしても素直に頼ることができず、顔を逸らして強がりを吐き出す。

「こ、このくらい、平気です」

本当は怖い。ひとりでいると、不安に押しつぶされそうだ。

(でも、彼は私の友人でも恋人でもなんでもない。線引きをしないと)

感情に任せて人に甘えることをした記憶がない。それゆえ、誰かの胸に飛び込んでしまったあと、どうなるか見当もつかない。

一度温もりを知ってしまえば、どんどん人に寄りかかってしまいそうだ。ひとりじゃなにもできなくなるのではないか、と。
鈴音は、それも怖かった。

揺らぐ瞳で必死に気持ちを落ち着けようとする。すると、手首を掴んでいた忍の手が、今度は鈴音の手のひらを握った。

「手の汗がすごい。それなのに、尋常じゃないくらいに冷たい」

見透かされていると動揺した次の瞬間。鈴音は忍の広い胸に抱き留められていた。
落ち着く体温と鼓動が、密着している頬から伝わる。

今置かれている状況を理解するには、まだ時間がかかりそうだ。

忍は、思考が停止している鈴音の旋毛に声を落とす。
< 69 / 249 >

この作品をシェア

pagetop