契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
翌朝は、安穏とした目覚めだった。
鈴音が穏やかな気持ちでゆっくり視界を広げていくと、見慣れぬ景色に目をぱちくりさせる。

頭の中で昨夜のことを整理しながら、ここが誰の部屋なのかを思い出すのと同時に、自分の体勢に驚いて勢いよく自分の手を引いた。

(わっ、私、いくら寝ていたからって、こんな大胆なこと……!)

心臓をドクドク鳴らして顔を真っ赤にするわけは、距離を取って寝ていたはずなのに、忍へ抱きつくようにして眠っていたからだ。
まだ腕や身体に残る忍の感触は、鈴音の動悸を落ち着かせることをしない。

幸いなのは、忍がまだ寝ていることだ。

(黒瀧さんも寝ているから、気づかれていないよね?)

密かに深呼吸をし、息を整える。忍の寝顔を見つめ、目を覚まさないことに安堵した。

鈴音はそろりとベッドを抜け出すと、自室へ一度戻り、着替えを済ませた。元々メイクに時間をかけないため、身なりを整えるのに三十分もかからなかった。

その後、リビングへ向かいキッチンへ入る。
鈴音が使用していた冷蔵庫は柳多に処分されたため、残っていた食材は忍の冷蔵庫に移されていた。

(ひとりなのに大きな冷蔵庫。私が使っていたものが小さいせいもあるけれど、二倍はあるな)

見上げるほどの冷蔵庫と対面し、そっと扉を開ける。

(でも、中はほとんど空に近かったんだよね)

広々とした庫内には、鈴音が買っていた食材が悠々と並ぶ。どうやら忍は自炊をしないようで、冷蔵庫には水や酒くらいしか入っていなかった。

勝手がわからないものの、どうにか自分の調理用具を使って朝食を用意する。
コーヒーが落ちたところに、忍が姿を現した。
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