Fragrance
「なあ、本当に俺と付き合わないの?」
煙草を吸いながら、香は吐き出した煙と共に言葉を紡ぐ。
汚れた言葉に反応しないでいると、無理矢理キスをされた。
口の中が焦げた草の香りでいっぱいになる。
「ねえ、臭い」
「臭いってひどくないか?」
「触らないで」
事が終了すると全てがめんどくさくなる。
香を受け入れる前はあんなに興奮していたのに、終わった瞬間、恋人を裏切り続けるこの男の顔も見たくなくなってしまう。
どうせ連絡をしないと言いつつも、フォトフレームの中の女に今日あった出来事をスマートフォンの連絡専用アプリにせっせと書き込み送るのだ。
そしてそこに瑞帆の存在はない。
「キスする?」
機嫌を取るように言葉を選ぶ香を睨み付けた。
「まじでキモイ」
眉を顰めて言い、部屋を出ていく。
どうしてこんなにも苛々するのか自分でもよく分からなかった。
8センチのヒールが大学の廊下にコツコツと響いた。
近くのトイレに入ってポーチを取り出す。
その中に入っている小さな香水瓶を取り出して、腕につけた。
煙草の匂いは嫌いだ。
香を掻き消すように、瑞帆は自分の香りで上塗りしていく。
「本当最低。大嫌い」
呟くように言って、一緒にメイクも直した。
用も済んだので大学を後にする。
早くこの場所から離れたかった。