Fragrance


「いらっしゃいませー」


アルバイト先は銀座にあるガールズバー。


ミニスカートをはいて、接客するのは嫌いじゃない。


自分の身体をいい状態でキープするには、服装で危機感を持たせていくしかないのだ。


決してフォトフレームの中に入った、あのふくよかな女のようになりたいわけではない。


ゆったりとした白いワンピースなんか着てやらない。


ここでは瑞帆の香りも誰かの香水と一緒に紛れて消えていく。


香の煙草の匂いは客の煙草のと混じり合ってなかったことになった。


「ねえねえ、瑞帆ちゃんって本名なのー?」

MIZUHOと書かれたネームプレートを指さしながら、お客さんが訪ねて来るので「内緒ですよー」と口角を挙げて答える。


ああ、早く仕事が終わればいいのに。


そして、早く眠りにつきたい。


仕事が終わって帰ろうとすると「瑞帆ー。クラブ行こ」といつもお誘いがかかる。


「えーどこ?」


「六本木の新しく出来たとこ。彼氏のツテでタダで入れてくれるってさ」


「マジで?」


じゃあ行く。


意思が弱いんじゃない。


楽しいことを優先させたいだけ。



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