Fragrance


表参道から歩いて十数分。


歩いて渋谷まで行く。


昼間では喧騒の街渋谷も、夜になると大きく違って閑散としていた。


ホテル通りに入って、目的のラブホテルの中に入る。


今の彼氏とは一度も行ったことがない場所。


何だかんだ会えなくても、相手の家に呼ばれたり外でちょっと高い外食だったりするのでこういう場所に行ったことがなかった。


恋人とそうでない関係の差を少しだけ思い知る。


受付にあるタッチパネルで部屋を選び、7800円の部屋のボタンを純也は押すと圭の手を引いて、部屋の中まで連れて行った。


部屋の中に入ると、荒々しく唇を奪われる。


愛している訳ではなく、性的行為が目的のそれは噛みつくような激しさで、思いやりのかけらもないようなそんなキス。


換気扇が回る音と、貪り合うようなキスの音だけが部屋の中に響いていた。


純也から溢れ出すCANDYの香りと共に、思考回路が曖昧になっていく。


PRADAの香水CANDYは、彼と出会った時から彼が愛用しているものだ。


「いい匂いだね」


と言った圭に「お前、見る目あんじゃん」と笑った純也の顔を思い出す。


ずっと仲の良い友達だった。


「ねえ、純也っ……」


「ん?」


「やっぱりできない……」


「は?」


ここまで来て何言ってんだよ。


とばかりに眉を顰めて純也は言った。


「純也とは出来ない……」


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