Fragrance
「あの……プライベートな悩みなので……」
「もし嫌でなければその悩みをシェアしましょう。僕でよければ力になりますよ」
どこまでも紳士で親身なジャンに申し訳ないと思いながら、萌衣は今の状況を彼に話した。
「それはヒドイ話ですね」
肩をすくめてジャンは溜息をつく。
でもどこにでもある話だと。
「そうですよね……」
「モエは今好きな人がいるのですか?」
静かに尋ねられて、首を横に振る。
「残念ながらいないんです。そもそも恋事体にあまり縁がなくて」
勉強一筋で頑張ってきた萌衣にとって、恋愛は将来の夢への足を引っ張るものとして育てられてきた。
筋金入りの親の教育のおかげか、学歴は高く恋愛音痴な自分が形成されている。
恋愛をしてこなかったのは自分のせいでもあるので、親のせいにするのも何か間違っているような気もするが、初恋もままならないまま知らない相手と結婚するのだけは避けたかった。
恋がしたい。
「モエ」
「は、はい」
あまりにプライベートな悩みをいくら共有してもいいと言われたからと言って、余計なことをしゃべり過ぎたのだろうかと慌てていると「今度の土曜日の日程を全部キャンセルできますか?」と静かに尋ねられた。
スケジュールを確認すると、会食や社内ミーティングだけだったので何とか調整は出来そうだ。
「では、モエ。僕とデートしましょう」
突然の爆弾発言に「はあ?!」と大きな声が出てしまった。
「な、なにをおっしゃるんですか?」
「スケジュール調整お願いしますね」
有無を言わせないジャン。
「ちょっと待ってください」と言おうにも「さあ、車で移動ですよ」と仕事の案件をかざされてしまえば、そちらに従わなくてはならなくなる。