Fragrance
デートは何のことなく終了し、次の日からいつも通りの日々が始まった。
買って貰ったネックレスをつけて出社すると、ジャンは心なしか嬉しそうな表情を浮かべている。
業務が終了すると、叔母から大量の不在着信が入っていた。
「……嫌な予感」
折り返さないと後が怖いので萌衣は恐る恐る電話を掛ける。
電話はワンコールで繋がった。
「ちょっと、萌衣ちゃん。週刊誌見たわよ!」
「へ?」
「あんなに素敵な彼氏がいるんなら、無理矢理お見合い設定なんてしなかったのに!早く言いなさいよ。一体どうやったらあんなにお金持ちで素敵な男性のハートを射止めることができるのよ。羨ましいわ。上手くやって結婚までこぎつけるのよ!」
叔母は言いたいことだけ散々言うと電話を切った。
何が何だかわからず混乱していると、今度はLINEで画像が送られて来る。
そこに週刊誌の1ページにジャンと萌衣がデートしている様子が写真に写っていた。
イケメン社長とうとう本命か!という見出しに「どういうこと!?」とまだ社内なのにも関わらず、大きな声が出る。
「ああ、やっぱり撮られていましたね」
背後から洋梨の香りがして振り返るとジャンが笑顔で立っていた。
「社長?」
柔らかく笑う彼に、萌衣は慌てて「ちょっと待ってください」と言う。
「どうしました?」
「社長……大丈夫なんですか?」
「なにがです?」
「え、だって。社長噂になったら……」
「僕は好きでもない子にアクセサリーを贈ったり、ディナーに誘ったりしませんよ」
「……」
「モエ。結婚を前提にお付き合いしましょう」
「え?」
「YESと言うまで何度もアプローチしますから。とりあえず、今夜のスケジュールはキャンセルしてください」
まずは僕を好きになってもらうところからですね。
洋梨の香りに包まれて優しく笑う彼の奥さんになるのは、そう遠くない話らしい。
Fin