Fragrance
次の日知らない部屋で目が覚める。
綺麗に掃除されているその部屋は、甘いシトラスウッディの香りに包まれていた。
あ、この香り好きだ。
誰かがこの香りのする香水をつけていたんだっけ。
誰だっただろう。
ぼーっとした頭の中で考える。
黒い布団の中で首元に違和感を感じていると、その腕の先にはぐっすりと眠っている後輩の姿がいた。
「……へっ!?」
昨日飲んだところまでは覚えているけれど、その先を覚えていない。
ベッドの下を覗き込むと、捨て散らかした男女の洋服が下着も含めて絡み合っていた。
互いに裸だということは、やることはやっているということ。
ゴミ箱の中を覗き込んでみると、そこにはしっかりと使用済みのアレが。
いくら失恋したばっかりとはいえ、後輩を襲うほど可哀相な状況だったのだろうか。
自己嫌悪が奈落の底まで落ちていく。
自分に課したルールとして、会社の男には手を出さないと決めていたのに。
「あ、先輩。起きたんですか?」
目をこすりながら健二が起き上がった。
「ごめん!なかったことにしてっ!」
服を着こんで部屋を飛び出す。
少しだけ湿った下着が昨晩の過ちのリアルを物語っていて、会社で健二と合わせる顔がない。
ああ、やってしまった。
本当に社会人として失格だ。
ふと前の恋人の言葉を思い出す。
「ありさってさ。本当男心分かってないっていうか。そういうところ無理」
別に浮気されたわけでもなかったのに、フラれた。
浮気してくれた方がまだましだった。
落ち度が向こう側にあればよかったのに。
浮気はしていないけれど、お前とは一緒にいたくないという事実の方が痛い。
電車に飛び乗り、服についたシトラスウッディの香りがますますありさが健二に手を出したのだという証拠を突きつける。
まるでまだ健二といるようで、ドキドキする自分にどうしたらいいのか分からなかった。