Fragrance



脱ぎ捨てた服は洗濯機の中に放り込んだ。


簡単にシャワーを浴びて、着替えて慌てて家を出る。


会社の始業時刻には間に合いそうだ。


慌てながら最寄りの地下鉄の駅まで走っていく。


駅の構内に入った瞬間、健二のつけていた香水と同じ香りがありさを包んだ。


瞬間的に、忘れていた健二との情事がフラッシュバックする。


脳が覚えているその香り。


まるで健二がそこにいるかのような錯覚に陥った。


健二がありさに落としたキスの回数も、果てる瞬間もすべて脳がありさに記憶映像として見せていく。


「ねえ、俺もう無理」


いつもより少しだけ高いかすれたような声を出しながら、果てる後輩の姿は紛れもない男の姿だった。


ありさの最寄りに彼がいるはずもなく、首を大きく横に振って電車に乗り込む。


何故だか無償に泣きたいような胸が締め付けられるような気持ちになった。


会社に到着すると「おはようございます」と怒ったような表情を浮かべた健二が、ありさのところへ詰め寄うるようにやってくる。


「先輩。ちょっといいですか……」


「は、はい……」


やり逃げしたのはありさの方なので、非常に分が悪い。


それに誘ったのも記憶の中ではありさの方だった。


「営業行ってきますー!」


健二が大きな声を出すと「いってらっしゃーい」と他の社員が声を上げる。


誰も2人が昨晩身体を重ねただなんて、思いもしていない。


誰もいない地下にある駐車場には、営業マンたちが使用する会社の車で溢れている。


人気がないと分かった瞬間、健二に噛みつくようなキスをされた。

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