Fragrance
「ねえ、なんでなかったことになるんですか?」
熱い吐息に混じらせながら、健二はありさの耳元で囁いた。
甘い香りに支配されて、何も考えられなくなっていく。
「だって……迷惑でしょ……」
彼女がいるかもしれない。
それにありさは年上だ。
男の人って年下の若い女の人がいいんでしょ?
それに私は失恋したばっかりで、そんな簡単に他の男と身体の関係になるような女に本気になってくれるの?
そんな言葉が頭の中でぐるぐると駆け巡る。
これでは、ありさが健二の事好きということになってしまう。
慌てて弁解しようにも、キスの先の快感で上手く言葉が紡ぐことが出来ない。
「俺のこと?」
それ本気で言ってるんだったら怒りますよ。
耳たぶを甘噛みされて、耳の中を犯される。
胸元にしがみつくと、やっぱりあの香り。
この香りを嗅ぐたびにありさは健二のことを思い出す。
脳がそうインプットしてしまった。
「なんで、俺がほとんど毎晩一緒に飲みに行くのか知ってます?」
「……知らないっ」
まるで乾いた砂漠の中で溺れる漂流の民のように、快感がありさの思考を奪い去っていく。
「好きだからですよ」
「……」
「だから、迷惑じゃありません」
ご馳走もされてなんか、やりませんよ。
先輩の空気の読めないところも、すごく好きです。
頭はいいのに、おバカですよね。
「本当やっかい」
睨み付けていると、健二はニッコリと笑う。
「邪魔ものもいなくなったことだし、俺にしておけばいいんですよ」
深いキスのあと、飄々と言うその男はきっとありさなんかよりもずっと上手なのだ。
To be next story...【Addict】