気づいてくれる?
「あの!…あの!」

足音とともに聞こえる、焦った声にびっくりし、歩道を空けるように端によけた。
急いでる人が抜かしたいかと思ったのだ。

でもその声の主は、私を抜かさず、私の足元の前で止まった。

ゆっくりと顔をあげると、私はまた固まってしまった。

「ごめん、あのさ、あの、今日歯医者で治療してくれた、…えっと、オオハシさん…だよね?」

伺うように、上目遣いで確認してきたのは、さっき私に気づかなかった松浦さんだった。

「……はい、大橋です…」

訳のわからないまま名乗ると、松浦さんは安心したように笑った。

「はあー、よかった!…さっきはごめんね、挨拶してくれたのに気づけなくて。すぐにさ、あっ!そうだ!大橋さんだ!って」

「はぁ…」

「本当にすぐに気づいたんだよ?店の中探したけどもういなくて、急いで会計して外でてさ、後ろ姿みて、そうかな?って追いかけてきちゃった。…ごめんね?びっくりさせたよね?」

「いえ…あ、でもわざわざありがとうございます。嬉しいです。気づいてもらえて…ありがとうございます」

まだ頭が全然ついていけないけど、
松浦さんが、私に気づき、私を追いかけてきてくれた。
それは確かで、胸の高鳴りはどんどん加速していく。
< 10 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop