気づいてくれる?
「キーンって音がしちゃうかもしれないんですけど…」

私は手にした器具を持ち上げ、彼の顔をチラッと伺った。

松浦さんは、眉間にシワをよせたまま、一瞬固まったあと、息をフーッと吐き出した。

「…がんばります」

小さくもらしたその一言がなんだか可愛らしくて思わず笑ってしまった。

恨めしそうに私を見る松浦さんの視線に気付き、コホンとベタな咳払いなんかしたりして、私は背筋を伸ばした。

「私もがんばります。痛かったら左手をあげてくださいね。ではお背中倒します…」

どの患者さんにもいつも
(痛くないかな?苦しくないかな?)
気にかけながら、丁寧に、かつスピーディーにを心がけている。

松浦さんにはそれにプラス
(また苦手になりませんように)
を付け加えた。



「はい、今日はここまでになります。お疲れ様でした」

「…ありがとございました…」

ハンカチで口を拭きながら、松浦さんは大きなため息をついた。

「…大丈夫ですか?丁寧にやったつもりだったんですけど…痛かったですか?ごめんなさいね」

「いや!痛くなかったです!全然大丈夫!びっくりするくらい痛くなかった!」

申し訳なく目を伏せた私に、松浦さんは勢いよく言葉を繋いだ。

「本当にびっくりした!痛くないどころか、何となく気持ちいいなーとかも思っちゃったりして……、あっ!オレ変態とかじゃないから、Mとかでもないから!」

あわてて手を振りながら否定している姿が面白くて、私もついついノってしまう。
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