気づいてくれる?
職場を後にし、家とは反対方向の駅前の本屋へと向かう。

専門学校を卒業し、一人暮らしを始めた。
実家はそれほど遠くはないが、兄が結婚し、同居することが決まっていた。小姑までいたら義姉が大変だ。

一人暮らしは快適で、好きなように時間を過ごせる。
大好きな本を読んだり、ゴロゴロしてても母親に怒られない。
予定では、恋人とお泊まりデートとか、そのうち一緒にすんじゃう?なんてのを、妄想していたこともあったけど、予定はあくまでも未定だ。

「寂しくなんかないもんねー」

強がりと独り言の多さは、一人暮らし歴に比例すると思う。



「…あった、あった」

また声に出してしまったと思いながらも、手にした本は、お気に入りの作家さんのミステリー。
シリーズモノの最新刊だ。
明日は休みだし、今夜は一気読みできる。ワクワクした気分を押さえられず、顔がにやけてしまった。

他も見て回ろうと、通路を目線をさげ、ゆっくりと歩き回ると、同じく最新刊を持つ手を発見した。

(この人も今夜は一気読みかな?)

なんて勝手に親近感をもって顔をあげると固まった。

(松浦さん…)

もう会えないだろうと思ってた人に、その日のうちに再会することができた。
胸の鼓動が早くなるのを自覚した。
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