清廉の聖女と革命の鐘

「はあ」
クリスティーナはこれ見よがしに重いため息をついた。

「この国の聖女であり、王女でもあらされるクリスティーナ様が行かなくてどうするのですか」

やれやれと、肩を落とすブルーノに「わかっているわ」と不機嫌そうにぼやく。

顔に垂れてきた銀髪を彼女は流れる仕草で耳にかけた。

「お気持ちはわかります。ですが、これは王女であるクリスティーナ様の義務なのです」
複雑そうな顔をしたブルーノは、クリスティーナの美貌に騙されない人間のひとりでもあった。なので、他の聖騎士と比べ、彼はクリスティーナを甘やかさない。

大粒なアーモンド形をした目は、変わりゆく夕暮れの空をそっくり閉じこめたような、不思議な菫色。さらに上から濃い影を落とす、銀の睫毛。腰まで届く白銀の髪は月光を束ねたかのようにまばゆい。ミルク色をした肌はできたてのクリームのようになめらか。桃色の頬は咲き初めの薔薇の花びらのように初々しい。

まるで朝露のようにしっとりとした雰囲気を纏った彼女の姿は、まさにフェリテシアの女神の化身_とまあ、クリスティーナを一度も見たことの無いはずの詩人が捧げた美辞麗句は、おおむね本人の容貌を言い当てている。

噂とは恐ろしい。どうやってクリスティーナの容貌がそこまで広まったのか、彼女にとって永遠の謎だったりする。
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