清廉の聖女と革命の鐘
侵略者
たとえ急いでいても、歩くときの姿勢はまっすぐ、靴は踵から下ろす。紫に透き通るオーガンジーのドレスを優雅に翻し、クリスティーナ・フェリテ・エルカイダは夜会が催されている会場をぐるりと見回した。
国王との会食といっても、親子二人っきりではなく、貴族や聖騎士、聖職者などの国の重要役職についている人々も同席している。
銀の食器、蝋燭の灯が揺れる燭台、真っ白なテーブルクロス、玻璃で彩られた煌めくシャンデリア。紅のワインを手に談笑する派手な装いの貴族たち。半年に一度の夜の会食は_と言っても、ほとんど舞踏会と変わらないが_見るもの全てが眩しい。
「お父様!」
贅を尽くした会場内でやっと目当ての人物を捜し出し、クリスティーナは急ぎ足で向かう。豪華な衣装を着た貴族たちに囲まれた国王が、娘の姿を見てすぐに顔をしかめた。
「…クリスティーナ、お前か。何の用だ、私は忙しい」
酒が入っているのか、父親の顔はほんのり赤みがかっていた。下手に刺激しないように、彼女は声を潜める。
「…では手短に話します。先程、お父様がおっしゃったことは本当ですか?」
「何かと思えば、そんなことか」
「私と結婚するということは、エルカイダの聖女の夫となり、このエルカイダ王国の国王になるということです。それをそんなこととは片付けられません」
語気を強くして窘める。
先刻、国王は会場に集まった者達の前でクリスティーナの婚約者を発表したのだ。
冗談じゃない。私は何も知らされていなかったのに!
わき起こる感情を必死にこらえる彼女を横目に、ふんと父親は鼻を鳴らした。