清廉の聖女と革命の鐘
「何が不満だ。ライマール公爵は初代エルカイダの聖女の弟君から連なる由緒ある家系だ。しかも、世界各地に領地を持っていて、私産も豊富だ」
繭のような睫毛に縁取られた菫色の双眸を、クリスティーナはゆっくりと眇める。
「ですが、それを聖騎士や聖職者たちの了承も得ずに独断でお決めになったそうですね。彼らが黙っているはずがありません。
…お父様もご自分の立場をわかっていますよね?お願いです。考え直してください」
「まるで国王である私が、臣下である聖騎士達よりも下だというような言い草だな」
唇の端を震わせてきつく睨む父親に、失言を悟った。
「そういう…わけでは」
「なら文句を言わず、さっさとライマール公爵と婚約しろ!そうすれば聖騎士どもも簡単には手出しできなくなる」
「待ってくださいっ、ギルバートがそんなこと許すはずが」
「黙れ!国王の命令だぞっ!」
啖呵を切る父親に、クリスティーナは唾を呑む。黙り込んだクリスティーナに溜飲を下げたのか、彼はわずかに微笑を浮かべた。
「安心しろ。ライマール公爵はいくらでも金を積むと言っている。王族の生活はこれまで以上に豊かになるぞ」
「_まさか国王の座を、売ったのですか…!?」
しかもただの国王ではなく、聖女の夫という立場を。愕然とした分、声を荒げてしまう。