清廉の聖女と革命の鐘

「人聞きの悪いことを言うな。利害の一致が結果的にそうなっただけの話だ」

否定はするが、そんなの言い訳でも何でもない。

「それに、だ。この島は聖女に忠誠を誓う人間以外をないがしろにしすぎる。馬鹿げた話だ。代々の国王達から爵位と領地を預かり、国を支えてきた貴族より、聖女が選んだ聖騎士の方に発言力があるなど_挙げ句、あくまで主君は聖女であり国王には忠誠を誓わないなど」

父親のいつもの持論だ。元々、父親は先々代の聖女の息子。性別が違えば聖女となり、この島の権力を握っていたはずなのだ。それなのに今では先代聖女が亡くなり、彼はただの国王になった。

聖女のいない国王など、この島ではただのお飾りにすぎない。それがプライドの高い父親にとっては許せないのだろう。

「聖女など、ただ淡々と聖務をこなすだけの操り人形でしかすぎないというのに」

聖女を侮辱する言葉に、クリスティーナは反論しようと口を開いた。だがその前に、後ろから降った野太い声がそれを遮る。

「何の話だ、国王様?俺も混ぜてくれよ」

クリスティーナと国王の間に、剣の切っ先が割り込んだ。ブルーノがすばやく彼女を自分の背後に誘導する。

剣は床のすれすれのところで止まったが、床にはかすかな切り傷があった。

かまわずクリスティーナは、剣の持ち主を見る。見上げると首が痛くなりそうなほどの長身の男は、聖騎士の制服を着ていた。

聖騎士の中でも、聖騎士団団長にだけ支給される特別な正装だ。金の糸で仕立てられた真紅のマントを羽織っている。国花である“レイン”が描かれた刺繍があしらわれたマントは、この野性味の溢れる精悍な顔立ちによく似合っていた。

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