清廉の聖女と革命の鐘

「大変だな、父親のお守りも」

「…そう思うなら、お父様を挑発するような言動をやめてもらいますか」

「はっ。たとえ俺がやめたところで、あの国王の立場は変わらないし、他のやつらだって俺に代わってあの男を罵倒し続けるさ。あいつが自分の罪を認めるまで」

「罪?」

この時、この場に来て初めて彼女は微笑んだ。だが、それは心からのものではなく、慈愛に満ち、他者を哀れむような、完璧なる聖女の笑みだった。

「あなたがそれを言いますか。お母様の聖騎士でありながら、彼女を助けることのできなかった無能な騎士が」
口調はどこまでも穏やかだ。それなのに、凍てつくほどの冷たさを孕んだ声音。

ギルバートは何も言わない。ただまっすぐ、クリスティーナを見つめている。

「あなたに、国王を責める権利はありません。あなたとお父様は同じなのだから」

クリスティーナは言葉の刃を素手で掴んで、もっとも痛みを感じるように、手首を返して喉元まで通した。

「姫…」
それこそ自分が絞め殺されているように、ギルバートは顔をゆがめ、短い息を繰り返している。感情が言葉にならずに消えていく。

「聖騎士の名が聞いて呆れますね。ギルバート、これ以上私の邪魔はしないでください。それと、私に母の面影をかさねるのもやめなさい。私は母ではないし、あなたの聖女でもないです」

クリスティーナはゆっくり、親が子供に言い聞かせるようにはっきりと言い切る。

ぞっとするほどの美しい笑みを浮かべたまま、クリスティーナは優雅に礼をした。

「もう時間ですので、失礼しますわ」

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