清廉の聖女と革命の鐘

クリスティーナは重い瞼をあけた。目の前に広がるのは、砂浜や大海原ではなく、白一色の無機質な天井だ。

「ゆめ…」
久しぶりにあの夢を見たと、彼女は懐かしいような、苦しいような複雑な気持ちになる。

未だ覚醒し切れていない頭を懸命に回転させながら、クリスティーナはそろりと身体を起こした。

「聖女様」

低くよく通る声が彼女の耳をつく。クリスティーナは声のした方に顔を向けた。

「…ブルーノ、何かよう?」
彼の灰青色の瞳を見つめながら、クリスティーナは小首を傾げた。いつもなら、さすがのブルーノも聖女の私室にまでは入ってこないのだ。

きょとんと丸くした瞳を見て、彼女の専属聖騎士であるブルーノは、困ったように苦笑する。

「とぼけないでください。今日は国王陛下との会食がありますでしょう」

ほぼ確信に満ちた問いに、クリスティーナは表情を曇らせた。

「欠席してはだめかしら」

彼女は無理だとわかっていても、子供がだだをこねるように、甘えた口調で、ブルーノを菫色の瞳でとらえた。

「だめです」

やはり。彼からは思った通り、端的な答えだけが返ってきた。普通なら少しは思いとどまってもいいのに。さすが、クリスティーナに長年仕えているだけある。といっても、彼を聖騎士に叙任してまだ5年もたっていないのだが。

「お願い、ブルーノ」
クリスティーナは諦め悪く再度頼み込んだ。もちろん、彼からは同じ答えが返ってきただけである。
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