結構な腕前で!
「私は、はるかが土門を好きなのであれば応援したいけどね」

「う~ん。でも部活内で、ぎすぎすしたくはないです」

「そうなのよねぇ」

 ため息をつきつつ障子を開けたところで、土門の野太い声が響く。

「では、わしはこれにて」

 しゃっと茶室の障子を開けて廊下に出、正座をして中にぺこりと頭を下げる。
 そしてまた、しゃっと障子を閉めると、きびきびとした動作で外に出て行った。

「……あら?」

 廊下に顔だけ出していた二人は、顔を見合わせた。
 掃除をしに来ただけか?

「ちょっと土門くん。部活はこれからよ」

 はるみが廊下に駆け出して言うと、土門は、おお、と振り返り、ぺこりと頭を下げた。

「いや、昨日のこともあるし、部長とも話し合った結果じゃ。部室に現れる魔は、そこそこ強いようなので、わしのような一般人は返って足手まといじゃ。そこで、慣れるまでは初めに掃除だけでも、ということで」

「……いや、いいの? それで」

 柔道部のエースが、茶道部の雑巾がけだけに来るというのもどうなのだろう。
 よく承知したものだ。
 怪訝な顔をするはるみに、土門はにかりと笑った。

「わしは邪魔をするために掛け持ちまでして茶道部入部を決めたわけではない。はるか殿を守るにしても、とにかく魔に慣れねば茶道部では話にならぬ。部長は一週間に一度の道場での稽古? だか何だかだけでいいと仰せられたのだが、それではあまりにこちらの部に失礼かと思い、まだ魔が出ぬであろう短時間のみ、掃除に来ることにして貰ったんじゃ」

「柔道部のエースが、掃除のためだけに時間を割かなくても」

 掃除自体は、そう時間がかかるわけでもないが、如何せん部室までが遠いのだ。
 確か柔道部のある体育館棟は、校舎の向こう。
 真逆の方向だ。

「気遣いは無用。ここまでの道のりも、体力づくりにはもってこいじゃ」

 はっはっは、と笑い、では、とまた頭を下げると、土門は山を駆け下りて行った。
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