結構な腕前で!
「それじゃあね、萌実さん」

「また明日」

「「気を付けてね~」」

 双子がひらひらと手を振りつつ部室を出ていく。
 余計なことを考えていたお陰で出遅れてしまった。

 手早く着替えを済ませて廊下に出たところで、ん、と違和感を感じた。
 その瞬間、廊下に踏み出した足が、ずぶりと沈む。

「えっ」

 驚いて足元に目を落とすと、廊下に薄く煙が漂っており、萌実の足の部分だけ黒く穴が開いている。
 全体重を乗せていたので、足はそのまま黒い穴にずぶずぶと沈んでいく。

「のあああぁぁぁっ!!」

 慌てて柱に掴まるが、何かに引っ張られるようで身体は沈み続ける。
 半泣きになっていると、目の前の戸が、がらりと開いた。

「どうされたっ!」

 戸が壊れるんじゃないかというほどの勢いで土間に飛び込んできたのは土門である。
 え、何で、と思う間もなく、土門は廊下の側面に足をかけると、腕を伸ばして萌実の腕を掴んだ。

「ふんっ!」

 掛け声と共に、思い切り萌実を引っ張る。
 土門の力が並外れていたのか、穴の力がさほどでもなかったのか、萌実は呆気なく穴から抜け、勢い余って放り出された。

「ぎゃーーっ!」

 物凄い勢いで、ほとんど吹っ飛んだ萌実だったが、地に落ちる前に、部屋から出てきたせとかに受け止められた。

「何事です」

 せとかは萌実を降ろしながら廊下に目をやった。
 そして素早く身構える。

「土門。そこから動くな」

 言うなりせとかは、指に挟んだ菓子きりを廊下に放った。
 小さな竹の菓子きりのわりに、どすどすどすっと勢いよく廊下に突き刺さる。
 どうやったらあの小さい楊枝に、あれほどの威力を乗せられるのだろう。
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