結構な腕前で!
「うらぁ!」

 輩のような掛け声と共に、せとみがどこからか出した扇を掛け軸に打ち込む。
 その途端、掛け軸からぶわ! と白い煙が上がり、四方に飛び散る。

「おっと」

 煙なのに質量があるのか、ひゅるひゅると飛んできた白いものを、せとかが素早く手に取った柄杓で弾く。
 少し大きな白い塊が、傍に落ちて来た。
 せとかは腕の中の萌実を、ひょい、と抱き上げると、とんと畳を蹴る。

「せとみ、もうちょっと小さく砕いて頂戴」

「雑なんだから~。壺に入らないわよぅ」

 きゃんきゃんと言いながら、女子二人は何やら抱えた壺を持って走り回っている。
 どうやら煙の欠片を壺にキャッチしているようだ。

「せとかぁ! 萌実ちゃんに怪我さすなよ!」

「そう思うのなら、さっさと片付けてください」

 萌実を抱いたまま、せとかは自分のほうに飛んでくる塊を、柄杓で器用に弾いて行く。
 そうこうしているうちに、ようやく白い煙は治まった。

「今回の元凶はこれだな」

 せとみが掛け軸の向こう側に開いた穴に手を突っ込み、扇の先に突き刺したものを取り出す。
 何かぼんやりと白いものが、もぞもぞと動いていた。

「またこれ~。多いわねぇ」

「毎回変わり映えしないものじゃ、やりがいないわ~」

「「お茶会だって嫌がられるし~~」」

 双子女子が、ぶーぶー言いながらもせとみに壺を突き出し、扇の先のものを受け取る。
 その一連の流れの間、萌実は一人固まっていた。

「あーっと。説明する手間が省けたと思ったんですが。南野さん、大丈夫ですか?」

 せとかがようやく気付いたように、腕の中の萌実に声を掛ける。
 憧れの先輩の腕の中にいるというのに、萌実は赤ちゃんのように身体を縮こませて、石のように固まっていた。
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