結構な腕前で!
「何だ、これは」

 せとかが眉を顰める。
 今までの魔とは違う。
 廊下いっぱいに広がって、本当の煙のようだ。
 襲い掛かってくるわけでもないので、どこを狙えばいいのかわからない。

「はるかとはるみは……。帰ったか」

 ちっと舌打ちしながら、せとかはどこに持っていたのか柄杓を振るって廊下の煙を掬う。
 魔と対峙したときのせとかは格好良いが、柄が悪くなるな、と萌実は密かに残念に思った。

「あ、先輩。私、手伝いますよ」

 はた、と我に返って煙を掬おうと、萌実は身を乗り出した。
 萌実であれば素手でも大丈夫だと思ったからだが。

「危ない」

 ぐい、とせとかに引き寄せられる。
 せとかは片手に柄杓を持っているので、空いた片手で萌実の腰を掴んだのだ。
 そのまま引かれたので、自然萌実はせとかに抱きかかえられるようになる。

「ひぃ」

「ほら、怖かったでしょう。これは単なる煙の魔ではないようです。ここにダイブしようものなら、どこに行くやらわかりませんよ」

 それはそれで恐ろしいが、今はせとかに抱き寄せられているから悲鳴が出たのだが。

「しかし困ったな。あいつらがいないと、壺が……」

 呟き、せとかは腕の中で心臓をばくばく言わせている萌実に視線を落とした。

「南野さん。この川、吸い取ってみますか?」

「う、うええぇぇっ?」

「南野さんは身体が壺みたいなものですから、この煙を吸い取っても大丈夫ですよ」

「えええっ! こ、これを全部吸い取れってことですか」

 何やらわからない不気味なものを(しかも生きてる。多分)大量に食え、と言われているようなものである。
 萌実はまた半泣きになって、せとかを見上げた。
< 120 / 397 >

この作品をシェア

pagetop