結構な腕前で!
「こ、こんなもの、食べられません。せめて火を通してくださいっ」

「あははは。踊り食いはキツイですか。面白いですねぇ」

 さっきまでの真剣さが嘘のように、せとかが明るい笑い声を上げた。
 至近距離で笑顔を見せつけられ、萌実の血圧は上昇しっぱなしだ。

「北条殿っ。これを掬い取ればいいのであれば、わしがっ!」

 すっかり存在を忘れていた土門が、廊下の向こう側からずいっと身を乗り出す。
 そのまま両手を煙の川に突っ込もうとするのを、せとかが止めた。

「ストップ。さっきの南野さんの二の舞ですよ。南野さんは助けられますけど、あなたが落ちても助けません」

 そこは『助けられません』ではないのだろうか。
 単なる言葉のアヤか?

 しかも萌実に対しては『助けられる』だ。
 ここが『助ける』であれば、またテンションが上がるのに、と微妙な気持ちで、萌実はちらりと廊下の先を見た。

 そもそもこの煙はどこから来ているのだ?
 魔であるなら湧き出ているところがあるはず。

「……て、思いっきり廊下いっぱいですね」

 廊下の端から端まで煙で埋め尽くされている。

「てことは、端っこからですかねぇ」

 首を伸ばして部屋の中を見たところ、部屋に異変はないようだ。

「しかしここまで湧き出てくるまで気付かないとは。いつもの魔とは、質も違うようですし」

 またも軽い舌打ちと共に、せとかが言う。
 爽やかに笑ってみせたと思ったら、次の瞬間には柄が悪くなる。
 まったくせとみよりも掴み処がない。

「このまま放置して、部室までの山道が異界への落とし穴になりまくっても困りますしねぇ」

「何それ超怖いんですけど!」

「でも南野さんにこれ全部踊り食いして貰うのも、ちょっと申し訳ないですし」

 ちょっとかよ! とここは声に出さずに心の中で突っ込む。
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