結構な腕前で!
「ああああありがとうございます~~。身に余る光栄です~~」

 真っ赤っかになった顔を隠す意味もあり、萌実は若干パニック状態でその場に平伏した。

 そのとき、楽しそうな話し声と共に、廊下の向こうの戸ががらがらと音を立てた。
 掃除をしていたにしては楽しそうだ。
 せとかの目論見通りに事は運んだ、ということか。

「あら、待っててくれたの?」

「戸締りはしないとですし」

 言いつつ、せとかが腰を上げる。

「土門もご苦労様でしたね。あとははるかを送ってやってください。あ、煙の塊に触れたりしました?」

「拭き掃除をするときに、まぁ多少は」

 土門が己の手を見ながら言う。
 特に体調に変化はないようだ。
 退治した後の残骸だからだろうか。

「塊になっちゃったら、もう誰が触っても大丈夫なんですか?」

 萌実が聞くと、せとかは、少し首を傾げた。

「そうですねぇ。でも魔の塊には変わりないわけですから、あまり触らないほうがいいでしょう。そのための壺ですし」

「そっか。そのままにしておいていいものだったら、何もわざわざ謎の壺に回収しなくてもいいですもんね」

 萌実の言葉に、またせとかは少し笑った。
 そして土門をまじまじ見る。

「見たところ、大丈夫そうですが。試合も近いようですし、注意したほうがいいですね。はるかと手でも繋いで帰れば、綺麗さっぱり浄化できますよ」

 さらっと言う。
 土門が、その巨体からは考えられないほどの素早さで、さささーっと後ずさった。

「ととと、とんでもないっ! そのような恐れ多いこと、はるか殿に失礼でありますっ」

「手が嫌なら、腕組みでも負ぶってもいいですよ。帰るまで、はるかに触れてりゃいいんです」

「は、はるか殿に触れるなどっ!」

 あまりに焦っている土門が気の毒になったのか、単にいたたまれなくなったのか、はるかがずいっと前に出た。

「もぅ、何言ってるの。せとかでもいいじゃない」
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