結構な腕前で!
「嫌ですよ。男に必要以上に触れたくないです」

 ぴしゃりと断る。
 さらに。

「ついでに南野さんも貸し出し不可です」

 有無を言わさず萌実の使用も断る。
 萌実としても、土門と手を繋いで帰るのはお断りしたいところだ。

 別に嫌いではないが、あくまで萌実が好きなのはせとかなので。
 だから、そのせとかが断ってくれたことで、萌実のテンションは一気に上がった。

「何よ。萌実さんのこと独占してさ」

 ぷぅ、とはるかが頬を膨らます。
 一方、どうぞどうぞ、独占してください! と心の中で叫ぶ萌実の頬は緩みっぱなしだ。

「おや? はるかは南野さんが土門を浄化してもいいんですか?」

「~~~……! わかったわよっ」

 赤くなって、はるかが意地悪そうに笑うせとかから視線を外す。
 そして、ほとんど廊下まで出ていた土門と共に出て行った。

「強引ですねぇ」

「素直じゃないからですよ。つまらないところで意地を張るのは、はるかの悪いところですね」

 そう言って、せとかは萌実を促して廊下に出た。
 道場の扉を開けると、さっきまでの惨状が嘘のように、ぴかぴかになっている。

「凄いですね。土門くん、ハウスクリーニング屋さんになれますよ」

「いや、何もない板張りだからでしょう。柔道部で道場の掃除などは鍛えられてるでしょうし。でもまぁ、いい仕事しますね」

 道場の中に入り、せとかは萌実を手招きした。
 萌実が中に入ると、せとかは道場の中心で萌実を引き寄せた。

「ここに座って、意識を集中してください」

「え、でも」

 素人にいきなり意識を集中しろ、と言っても、何をどうやればいいのやら。
 困った顔で萌実が見上げると、せとかがすぐ後ろに膝をつき、萌実の両肩に手を置く。

「目を閉じて、身体の中の空気を入れ替えるつもりで、深く深呼吸してください。気を落ち着けるだけでいいです。難しければ、僕の手に集中して貰ってもいいですし」

 言われなくてもそうなりそうだ。
 早くも萌実の意識は己の両肩に置かれたせとかの手の熱に持っていかれている。

---し、深呼吸、深呼吸---

 言われた通り目を閉じて、深呼吸を繰り返す。
 どれぐらいそうしていたのか、すぅっと身体が軽くなったような気がした瞬間、肩に置かれたせとかの手が、軽く動いた。

「はい、いいですよ」

 声と共に、ぽん、と肩を叩かれる。
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