結構な腕前で!
「せとみの奴、どういうつもりかしら」

 せとかと和菓子屋『桜庵』に向かいながら、はるみが言う。

「今日の態度だっておかしいわ。いきなり萌実さんに作法教えたりするし」

「……南野さんを落としにかかってるんですかね」

 中指で軽く眼鏡を押し上げながら、せとかが呟いた。
 ちらりとはるみが振り返る。

「せとかはいいの?」

「……はるみはどうなんです?」

 はるみは桜庵の暖簾を潜りながら、ため息をついた。

「まぁ……はるかよりは、いいと思うけどね」

 はるみもせとかと同意見だ。
 できればイトコよりも他人を選んで欲しい。

「それに、はるかは土門くんに惹かれてるみたいだしね」

「土門ね……。はるかがああいうタイプが好きだったとは意外です」

「そうねぇ。そういえば、はるかって誰が好きって聞いたことないわ。ま、土門くんは優しいしね。萌実さんも、そう言ってた」

「でも南野さんは、ガチムチは好きじゃないって言ってましたよ」

「そうなんだ? ま、それは好き好きよねぇ~~」

 にやり、と意味ありげに笑い、はるみは涼しげなゼリーを注文した。
 せとみご希望の桜餅は無視である。
 そもそも、もう桜の季節ではないので、ものがないのだ。

「女子は優しい男に惹かれるものよ。土門くんは見るからに頼り甲斐があるしね。あとは外見の好みかしら」

「僕とせとみだと、外見は同じですから中身の勝負となるわけですか」

「そうなるかしらね。あ、でもせとかとせとみは、見た目も違うわよ。せとか、髪切ればいいのに。そしたらきっとモテるわよ。せとみだって結構モテるしね」

「別にモテたいわけではありませんので結構です」

「せとかは性格に難ありかもね。ミステリアスといえば聞こえはいいけど」

「魔を相手にしてるのですから、ミステリーかもしれませんね」

 ミステリアスとミステリーは違うのだが。
 そもそも人の雰囲気がミステリーってどんなんだ。
 ホラー寄りに思えてしまう。

 こういうところが『よく言えばミステリアス』なのだ。
 悪く言えば単なる天然ボケ。(後ろ二文字に重きを置くパターン)

「せとかはさぁ、萌実さんのこと、どう思ってるの」

「可愛い後輩ではありますよ」

 若干目尻を下げて言うせとかに、はるみはにやりと口角を上げた。

「それだけ?」

「どうでしょう」

 束の間はるみはせとかを見ていたが、やがて、ふぅん、と小さく呟いて前を向いた。
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