結構な腕前で!
 それから毎日のように、帰りはせとみと二人。
 部活が終わると、せとみはさっさと萌実を連れ去ってしまう。

「せとみの奴、ほんとにどういうつもりなのかしら」

 茶室ではるみが不満そうに言う。
 案の定萌実は先程せとみに連れ去られて、慌ただしく帰っていった。

「いいの? せとか」

 釜に蓋をするせとかに言うと、せとかは渋い顔ながらも、う~ん、と唸るように言った。

「どうでしょう……。南野さんがせとみを好きならいいのか……。いや、それであってもせとみの気持ちがいい加減なんだったら駄目か……」

「え、何?」

 ぶつぶつ言うせとかに、はるみが膝を進める。

「いえ、こればっかりは人の気持ちですから……」

「だから、より慎重にならないと駄目なのよ!」

 ばん、と畳を叩くはるみに、せとかはまた、う~ん、と唸った。

「そうなんでしょうけど。せとみははるかをすっぱり諦めたんですかね」

「えー? あんだけ執着してたくせに、そんなあっさり諦める?」

「今までは、はるかに好きな人もいなかったじゃないですか。だからせとみも良かったんですよ。でも今回、土門に取られた。明らかに敗北したわけですから、返って区切りがついたかもしれません」

 なるほど、とはるみが頷く。

「じゃあ南野さんに気持ちが向くのは、せとみにとってもいいことなのか? とも思うんですけど……」

「難しい問題ね……」

 腕組みして眉間に皺を刻んでいたはるみが、しばらくしてから、ちらりとせとかを見た。

「せとかはどうなの?」

 はるみの言葉に、せとかの視線がちらりと動いた。

「萌実さんのこと、どう思ってるのよ?」

 重ねて聞くと、せとかはまたも、う~ん、と首を傾げた。
 とても悩んでいるようで、こちらも深々と眉間に皺が寄っている。

「どうなんでしょう。でもせとみが南野さんの力だけを目当てに近付いているのなら許せないですね。南野さんがせとみのことを好いていても、せとみがそんな気持ちなのだったら南野さんが可哀相ですし」

「……ふ~ん? せとかがそこまで心配するってことは、せとかも萌実さんのことが、ちょっとは気になってるの?」

 さらにはるみが突っ込むと、せとかは、うううう~~ん! と身体を斜めにする勢いで首を傾げた。

「そこがよくわかりません。僕のパートナーとして考えると、稀有な存在でしょう。ただ、それだけだったら僕もせとみと変わりません。それは嫌ですが、そうではない、とも言いきれないような気もするのです」

「何にしても、せとかが他人を気に掛けるってことが珍しいことだわね」

「……まぁ……今までないタイプですからねぇ」

「そうね。せとかを中学の頃から知ってるっていうことからして普通じゃないわ」

「中学の頃南野さんが見たのは、せとみかもしれませんよ」

「違うわね~。だってせとかを慕って茶道部に入ったのよ? 中学の頃、茶道の北条先輩を見たってことだわ。中学時代、せとみは今以上に部活なんかしてなかったしね。萌実さんが見たのは、間違いなくせとかよ」

「……よく記憶に残ったものです」

「それが恋のなせる業だわね」

 ちらっと言い、はるみは腰を上げた。
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