結構な腕前で!
「ほらほら、そんなところにいたら、壺に突っ込みますよ」

 ざかざかざか、と箒を動かしながら、せとかがせとみを外へ向けて掃き出していく。
 この人も何だかんだで容赦ない、と萌実は自分も掃き出されないよう、箒を動かした。

「お前はほんと、人の気持ちを思いやるってことがない男だよ」

 他の者から離れた道場の入り口付近で、せとみがぼそ、と呟いた。

「僕は私情を挟まないだけです。とりあえずあなたは初めに大分働いたので、後始末まではしなくていいと思ってのことですよ。ま、裏の部長なのだから、働くのは当たり前と言えば当たり前なのですがね」

「私情を挟まない? 萌実ちゃんをちゃっかり自分の懐に入れておいて、よく言うぜ」

「それが私情かはともかく。やはりまだ諦めてないんですか」

 冷たい目で見られ、せとみは、ぐ、と口を噤む。

「そんなすぐに切り替えられるかよ。しかも、目の前にいるのに」

「まぁ……それはそうかもしれませんね。だから離れようのない相手など、やめておくに越したことはないんですよ」

 馬鹿ですねー、とでも言いたそうなせとかに、せとみは、ぎ、と鋭い目を向けた。

「お前みたいな能面野郎にはわかんねぇよ! 青春を謳歌することもできない欠陥人間のくせに!」

 怒鳴ると、せとみは身を翻して駆け去ってしまった。

「何やってんのよ。他が見えてない二人はいいとして、萌実さんがびっくりしてるわよ」

 しばしせとみの駆け去った後を見送っていたせとかに、はるみが声をかけた。
 振り返ると、少し向こうで煙の塊を抱えた萌実と目が合った。
 ちょっと慌てたように視線を落とした萌実に近付き、せとかははるみを手招いた。

「南野さんも、大丈夫とはいえ進んで素手で欠片を持たないほうがいいですよ」

 そう言って、はるみの手にある壺に促す。
 萌実は頷いて、手に持った塊を壺に落とした。

「さて、戸締りをして帰りましょう」

「道場解放も、皆でやれば早いわねぇ」

「そうね。土門くんが入ってくれて、ほんと助かる。掃除は上手だし」

 久々の双子二重奏なのに、さすがにここは好みの違いか、最後のハモりはなかった。
 その代わり、土門の、わはは、という笑い声で締めくくられた。
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