結構な腕前で!
「こっち半分、使いますよ」

 言いつつせとかが豚玉とチーズ餅玉のタネを鉄板に流す。
 そして焼いている間に運ばれてきたそば飯を食べ始めた。

「このタネ、多くないですか?」

 とりあえず自分のタネを鉄板に流しながら、萌実は広がるタネを眺めて出来上がりの大きさを想像した。
 普通のお好み焼きの、1.5倍ぐらいか。

 視線を前に移せば、せとかが焼いている二つのタネが、じゅうじゅうといい音を立てている。
 この二つで通常の三枚分。
 そして今、そば飯を食べている。

「おっと、卵を忘れるところでした」

 レンゲを置き、せとかが鉄板に卵を割った。
 そしてその上に、いい感じに焼けた豚玉を乗せる。
 少し焼いてひっくり返せば、潰れた目玉焼きが豚玉にくっついていた。

「うわ~、美味しそう」

 何とも手際がいい。
 思わず声に出した萌実に、せとかは少し笑った。

「南野さんのつくね玉も、卵に合うと思いますよ」

「あ、そっか。でも私、そんな上手に作れないし」

 せとかよりも下手くそだというのは恥ずかしい。
 お好み焼きはプチ料理だ。
 それで失敗したら、料理のできない子だと思われてしまう。

「僕が作ってあげますよ」

 そう言って、せとかはおばちゃんに卵を注文した。

---先輩がっ! 私のために料理をしてくれるだなんて!---

 男子の心を掴むには胃袋を掴めと言うが、男のほうが女子の胃袋を掴むこともあるんだ、と妙に感心しつつ、『胃袋を掴む』=『人の心を掴む』ことなのだと納得する。
 お好み焼き程度で胃袋を掴まれてしまうのも如何なものかとも言えるのだが。

「はい、できましたよ」

 萌実が心理学に目覚めている間に、鶏つくね玉の卵トッピングが完成したようだ。
 せとかが、コテでつくね玉を指した。

「ありがとうございます。頂きま~す」

 お腹は空いていたので、お好み焼きは快調になくなっていく。
 だがやはり通常の1.5倍の粉モンはキツイ。

 そういえば、部活でお菓子も食べている。
 何とか食べ切ったが、お腹がはちきれそうだ。
 が。

「ごちそうさまでした」

 涼しい顔で、せとかが手を合わす。
 前の鉄板もお皿も、綺麗に何も乗っていない。

「びっくりした?」

 はるみが、意外そうにせとかを見ている萌実に言った。
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