結構な腕前で!
「びっくりしたというか、意外というか」

 普通に考えたら、お好み焼き三枚とそば飯を食べたことになる。
 しかも餅の入った重たいもの含む、だ。

 なのに別段苦しそうでもない。
 無理して平らげた感じは一切ないのだ。

---この細い身体の、どこに入ったんだろう---

 背はあるが、横幅はない。
 でも大食いの人って案外痩せてたりするよな、そのクチかな、と思っていると、せとかが立ち上がりながら口を開いた。

「魔の相手をすると体力を使うのか、お腹が空くんですよ」

 いや普通はお腹が空いてもあんなに入りません、と突っ込みたいところだが、変なことを言って嫌われても困る。
 男は小食よりも大食らいのほうがいい。
 例え程度というものを超えていようと。

「でも何となくわかります。身体の中から体力を押し出す感じですもんね」

 この感覚は、実際力を放出した者しかわからないだろう。
 萌実が言うと、せとかはにこりと微笑んだ。

「わかってくれますか。さすが、僕のパートナー」

 うおおぉぉぉ!! それはどういうことですかーっ! と萌実の心は店の天井を突き破って天に昇る。
 危うく昇天してしまうところで、何とか踏み止まった。

「そっか。私たちはそういう外に放出するってことはないから、それはわかんないわ。あ、そう考えたら、せとみもそうね」

「そうですね。まぁせとみは単純に体力を使いますから、お腹が空くのは一緒でしょうけど」

 一括でお金を払うせとかに焦って、萌実が出そうとするが、やんわり断られる。

「僕が一番食べてますから」

 そういう問題ではない。
 食べ放題ではないのだ。
 が、せとかはさっさと外に出てしまう。

「さてじゃあ、南野さんを送って行きましょう」

 当たり前のように、萌実の家のほうに歩き出す。
 せとかもせとみも、萌実をしょっちゅう送っているので、家の方向は知っている。
 しばらく歩いて、小さな公園に出た。

「じゃあ気を付けて」

 いつもいつも家まで送って貰うのも気が引けて、少し手前のこの公園までにしている。
 今日もここで立ち止まり、せとかが手を振った。

「ありがとうございます。ご馳走様でした。あの、お金はほんとにいいんですか?」

「いいですよ。あ、じゃあ今度、あんみつでもご馳走してください」

 にこりと言い、はるみと一緒に背を向ける。
 ああやっぱりせとか先輩は素敵だ、と、萌実はしみじみその背を見送るのであった。
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