結構な腕前で!
第十七章
 萌実が茶道部の部室への山道を登っていると、先のほうに見える部室から、せとかが何か長いものを抱えて出てきた。

「あれせとか先輩。どこか行くんですか?」

 残りの坂を駆け上がり、着物姿のせとかに言う。
 せとかは、ちょいと向こうの展望台的に拓けた広場を指差した。

「天気がいいから、たまには野点でもしようかと」

 せとかが抱えているのは傘のようだ。
 すでに先の広場には赤い繊毛が敷いてある。

「いいですね。手伝いますよ」

「とりあえず、着替えてらっしゃい。制服だと雰囲気も出ないですから」

 せとかに言われ、萌実は急いで部室に入った。
 更衣室で袴に着替える。
 慣れたもので、もうわたわたすることなく着替えられるようになった。

 着替えて茶室を覗くと、せとかがカセットコンロを引っ張り出している。

「ポットで済ます手もあるんですがね。折角ですし、本格的にやりましょう。ポットだと作法もおかしくなりますし」

 せとかがカセットコンロと釜を運び、萌実はその他の茶碗など細々した小物を運ぶ。
 二人で運んだので、すぐに野点の準備ができた。

「凄いですねぇ。何か折角ちゃんとしたセットなのに、部員だけって勿体ない」

「こういう景色を独り占めできるのも、茶道部の特権です」

 カセットコンロにセットした釜に湯を沸かし、せとかが優雅にお茶を点てる。
 あれれ、と萌実は部室のほうを見た。

「せとか先輩、他の人は?」

 野点の席にはせとかと萌実の二人だけだ。

「せとみは土門と道場で特訓ですよ」

「え、二人で?」

「ええ。道場に関しては、せとみのほうが部長ですから」

 今はテスト前なので、通常の部活はお休みなのだ。
 なので土門も柔道部はお休みで、こちらに来ているのだろうが。
< 164 / 397 >

この作品をシェア

pagetop