結構な腕前で!
「いやいや、家元としてお弟子さんを教えるときは、ちゃんとした流派の手順に則ってますよ。お菓子も普通サイズです」

 あ、良かった。
 このサイズが普通じゃないってわかってたんだ、と妙なところで安心し、萌実は胸を撫で下ろした。

「それとは別に、僕の家には裏流派があるんです」

「それが、この魔絡みのやつですか」

「そう。茶道には精神の強化の意味もありますからね。いついかなるときでも平常心を保つとか。戦国武将が嗜んだのも、そういう意味ですよ」

「えっと、別にそれは、裏にする必要はないのでは?」

「裏はさらに、いかに魔と戦うか、というのが入るんです」

 つまり『魔』が絡むと裏になる、ということか。

「裏は誰でも習えるわけではない。素質が重要ですからね」

「そうでしょうね」

「お茶を点ててるときに魔に襲われても平常心で対応できるか、とか。冷静さがものをいうのです」

 例えば、と、不意にせとかが萌実の横の地面を指差した。
 ある一点から、じんわり質量のある細い煙が立ち上っている。

「ふんっ」

 間髪入れずに、萌実はその地面に菓子きりを突き立てる。
 煙は呆気なく、ぼろぼろと灰になって崩れた。

「そうそう、そういう対応です。いや、素晴らしいですね」

 ぱちぱちと、せとかが手を叩く。

「けど、ちょっと惜しい。菓子きりを武器にするんだったら、武器用は別に持っておくべきです。というか、二本必要ですね。その菓子きりでお菓子を食べる気にはならないでしょう?」

「あ、なるほど」

「そういう冷静さを養っていくのです。お茶を点ててるときに魔に襲われて、茶筅で叩くと辺り一面緑の海です。ちょっとお行儀悪いでしょう?」

 お行儀の悪さで済ませていいのか。
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