結構な腕前で!
「あの。せとか先輩は、こっちから行かないんですか?」

 声を掛けると、せとかは立ち止まって振り向いた。
 そして萌実が指差している茂みを見る。

「……そこには道はありませんよ」

「いや、わかってます。でも昨日、せとみ先輩が近道だって教えてくれたんです」

 ほぉ、と少し感心したように言い、せとかは茂みを見た。

「なるほど。昨日南野さんは、ここから来たわけですか」

「近かったのかも、よくわかりませんでしたけど」

「でしょうね。慣れないうちは、普通道を外れたりしないものです」

 もしかして馬鹿にされたのだろうか。
 話していても、どこかぼーっとしていて、どういうつもりで言ったことなのかもわからない。

「ここまでは茶道部しか来ないから、何かあったら危ないですよ」

「あ、そ、そうですね。気を付けます」

 どうやら単純に心配してくれたようだ。
 確かに学校の敷地内とはいえ遭難しかねない。
 ちょっとせとかの優しさに感激したが、それをさらりと続く言葉でぶち壊す。

「ここには昨日のようなものが、うようよいますしね」

 う、と萌実の顔が引き攣った。

「武者修行にはもってこいですよ。南野さんも体力づくりにサバイバルマラソンしますか?」

「さ、サバイバルマラソン?」

「下から山頂まで走るんですよ。僕らが走ると、何故かああいうものが湧き出てくるんでねぇ、それを打ち払いつつ走らないとなんです。これがまた、結構な重労働でねぇ」

 くら、と萌実は、また眩暈がした。
 この華奢な身体の、どこにそんな体力があるというのか。

「今日は道場解放日だから、頑張ってくださいね」

 わけのわからないことを言い、せとかはにこりと笑顔を向ける。
 道場って何だ、という突っ込みも、結局この笑顔でやられているうちに、うやむやにされてしまうのだった。
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