結構な腕前で!
 繰り出される鋏を茶匙で受け流すせとみを、萌実はぽかーんと眺めた。
 十分武器な鋏と、全く武器でない茶匙で互角に戦うせとみは、さすが裏部長である。

「あっ」

 数分の攻防の末に、びゅっと振り下ろされた茶匙が、由梨花の額ぎりぎりで止まった。

「勝負あったな」

 言いつつ茶匙を降ろすせとみに、由梨花は、ふ、と息をついた。
 くるりと鋏を回し、懐にしまう。
 そして、艶やかな袖を翻して、すたすたと扉に向かう。

「やっぱりあなたは、わたくしのものになるべきよ」

 戸の前で小さく振り向き、由梨花が言った。

「わたくし、諦めませんことよ」

 ほほほほ、と高笑いを残し、ぴしゃんと戸が閉まる。
 やたらと強烈な人物が強烈な動きをしたせいか、由梨花がいなくなると一気に室内が味気なく感じる。
 萌実はそろりとせとかを見、ぎょっとした。

「ちょ、先輩っ! どうしたんですか」

 せとかは窓に貼り付いて、ぜぃぜぃと外の空気を貪っていた。

「あ。ちょっとせとか、息止めてろ」

 せとみが言い、さっき切り落としたユリを投げる。
 せとかの頭上を越えて、ユリの花は二階の窓から外に飛んで行った。

「ありゃ、立派なユリだったのに、勿体ない」

 萌実が呟くと、せとみが、ちちち、と指を振った。

「あれを置いておいたら、せとかが死んじゃうよ」

「え?」

「せとかは重度の花粉症なんだ」

 花粉症、というと、スギやヒノキといったイメージだが。

「しかも花の、ね。ああいう花粉の多い花はとんでもない。だから華道部には近付けないんだよ」

「へー……。確かに『花の粉』ですもんねぇ。お花に反応しても不思議じゃないか。でも珍しいですね」
< 174 / 397 >

この作品をシェア

pagetop