結構な腕前で!
繰り出される鋏を茶匙で受け流すせとみを、萌実はぽかーんと眺めた。
十分武器な鋏と、全く武器でない茶匙で互角に戦うせとみは、さすが裏部長である。
「あっ」
数分の攻防の末に、びゅっと振り下ろされた茶匙が、由梨花の額ぎりぎりで止まった。
「勝負あったな」
言いつつ茶匙を降ろすせとみに、由梨花は、ふ、と息をついた。
くるりと鋏を回し、懐にしまう。
そして、艶やかな袖を翻して、すたすたと扉に向かう。
「やっぱりあなたは、わたくしのものになるべきよ」
戸の前で小さく振り向き、由梨花が言った。
「わたくし、諦めませんことよ」
ほほほほ、と高笑いを残し、ぴしゃんと戸が閉まる。
やたらと強烈な人物が強烈な動きをしたせいか、由梨花がいなくなると一気に室内が味気なく感じる。
萌実はそろりとせとかを見、ぎょっとした。
「ちょ、先輩っ! どうしたんですか」
せとかは窓に貼り付いて、ぜぃぜぃと外の空気を貪っていた。
「あ。ちょっとせとか、息止めてろ」
せとみが言い、さっき切り落としたユリを投げる。
せとかの頭上を越えて、ユリの花は二階の窓から外に飛んで行った。
「ありゃ、立派なユリだったのに、勿体ない」
萌実が呟くと、せとみが、ちちち、と指を振った。
「あれを置いておいたら、せとかが死んじゃうよ」
「え?」
「せとかは重度の花粉症なんだ」
花粉症、というと、スギやヒノキといったイメージだが。
「しかも花の、ね。ああいう花粉の多い花はとんでもない。だから華道部には近付けないんだよ」
「へー……。確かに『花の粉』ですもんねぇ。お花に反応しても不思議じゃないか。でも珍しいですね」
十分武器な鋏と、全く武器でない茶匙で互角に戦うせとみは、さすが裏部長である。
「あっ」
数分の攻防の末に、びゅっと振り下ろされた茶匙が、由梨花の額ぎりぎりで止まった。
「勝負あったな」
言いつつ茶匙を降ろすせとみに、由梨花は、ふ、と息をついた。
くるりと鋏を回し、懐にしまう。
そして、艶やかな袖を翻して、すたすたと扉に向かう。
「やっぱりあなたは、わたくしのものになるべきよ」
戸の前で小さく振り向き、由梨花が言った。
「わたくし、諦めませんことよ」
ほほほほ、と高笑いを残し、ぴしゃんと戸が閉まる。
やたらと強烈な人物が強烈な動きをしたせいか、由梨花がいなくなると一気に室内が味気なく感じる。
萌実はそろりとせとかを見、ぎょっとした。
「ちょ、先輩っ! どうしたんですか」
せとかは窓に貼り付いて、ぜぃぜぃと外の空気を貪っていた。
「あ。ちょっとせとか、息止めてろ」
せとみが言い、さっき切り落としたユリを投げる。
せとかの頭上を越えて、ユリの花は二階の窓から外に飛んで行った。
「ありゃ、立派なユリだったのに、勿体ない」
萌実が呟くと、せとみが、ちちち、と指を振った。
「あれを置いておいたら、せとかが死んじゃうよ」
「え?」
「せとかは重度の花粉症なんだ」
花粉症、というと、スギやヒノキといったイメージだが。
「しかも花の、ね。ああいう花粉の多い花はとんでもない。だから華道部には近付けないんだよ」
「へー……。確かに『花の粉』ですもんねぇ。お花に反応しても不思議じゃないか。でも珍しいですね」