結構な腕前で!
「あなた、ご自分が何を言っているかわかっているの?」

 きいぃっと上体を突き出して喚く由梨花の手の中で、扇の骨がみしみしと音を立てる。
 よくもまぁ階段の上からここまで上体を突き出せるものだ。
 下りればいいのに、と思っていると、不意に由梨花の後ろに人影が現れた。

「曲者っ!」

 いきなり由梨花が、身体を反転させつつ持っていた扇を旋回させる。

「おぅっ。危ないですねぇ」

 身体を反らせて扇を避けたのはせとかだ。

「血気盛んなのは結構ですけどね、相手を確かめてから攻撃したほうがいいですよ。ここは校舎の階段なんですから、一般生徒も多くいます」

「そうですよー。現に一般生徒の先輩を攻撃してるじゃないですか」

 いきなりな鋭い攻撃に引いていた萌実も同調する。
 由梨花は背後を確かめることなく、閉じた扇の要で相手を殴りつけようとしたのだ。
 しかも高さ的にはこめかみを狙っているような。
 しっかり急所狙いではないか。

「こめかみ狙いってことは、対人じゃないですかー」

「当たり前でしょう。何を聞いていたの。わたくしは魔を見極める。後ろにいたのが彼だってことも、ちゃんとわかってましたわ」

 呆れたように言う由梨花に、萌実はあんぐり口を開ける。
 せとかとわかっていて何故攻撃するのか。
 そういう気持ちが顔に出たのだろう、由梨花は広げた扇を口元に当て、斜めに萌実を見下ろした。

 これが決めポーズのようだ。
 確かにめっちゃ高飛車な態度で、しかも似合っている。
 見えないユリが、背後に咲き誇った。

「簡単なことよ」

 どこか憎々しげに、さりげなく距離を取っているせとかを見る。
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