結構な腕前で!
「ったく、何だよお前は。いきなり物騒な」

「物騒なのはあなたです! ユリで叩いたところで怪我などしないでしょう! ああ、またわたくしのシンボルが……」

 手に残った茎を投げ捨て、大きくため息をつく。

「でもやっぱりその腕、惚れ惚れしますわ。いい加減に観念なさればどう?」

 ずい、と由梨花がせとみに迫る。

「お家柄的にも丁度良くってよ」

「冗談だろ。あんたこそ、いい加減諦めてくれ」

 素っ気なく言い、せとみはくるりと背を向けた。
 えーと、とせとみと由梨花を交互に見た後、萌実はせとみを追おうとした。

「昨日も言った通り、せとみ様に手を出したら承知しないわよ」

 いきなり飛んできた言葉に、萌実の足が止まった。
 降り向くと、由梨花が腕組みして萌実を睥睨している。

 本当に、こういう態度の似合う人だ。
 女王様に傅く人の気持ちが何となくわかるかも、と思いつつ、萌実は身体を戻した。

「あの?」

「あなたのような力のない人が茶道部に入るなんて、何か理由があるにきまってます。大方せとみ様に惹かれたのでしょ?」

 なかなか鋭い。
 が、狙いの対象が違う。

「いえあの。私は先輩たちと同じような力があります。でないと部員としてやっていけないですし」

「嘘仰い」

 萌実の説明は、ぴしゃりと跳ね除けられる。
 この間髪入れない非情さと、有無を言わせない圧迫感。
 わけもなく『申し訳ございませんでした』と言ってしまいそうになる。

 萌実が密かにMに目覚めている間に、由梨花は一歩前に出ると、ぴ、と指を萌実の鼻先に突き付けた。

「柔道部の土門だって、茶道部に入ったらしいじゃない。それは橘の双子のどちらかが目当てだってわかってますわ。力のない者の原動力なんて、そこでしょう」
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