結構な腕前で!
「あのぅ、誤解なさっておいでですが、私は別に、せとみ先輩目当てじゃないです」

「すっとぼける気っ?」

 光の速さで、ぐわっと胸倉を掴まれる。
 鬼気迫る美女のアップは恐ろしい。

「いやいや、本当ですって。大体なんでせとみ先輩一択なんですか」

「それ以外に誰がいるというの!」

「ていうか、何で他に誰もいないと思えるんです」

 仰け反る萌実に、由梨花は手を放して考える。
 つか、何を考えることがあるのか。
 考えるまでもなく、茶道部の部長がいるではないか。

「……わからないわ」

「いやいや、何でですか」

「こっちのセリフですわ。残りっていうと、いるかいないかわからない暗さの、せとみ様の片割れとも思えない片割れじゃない。あれのどこがいいというの!」

 何だろう、この評価。
 えらい言われようなのに、真っ向から否定はできないような。
 ごめんなさい先輩、と心の中で詫びる萌実に、由梨花は珍獣を見るような目を投げた。

「変な趣味ね。わたくしには全くわからないのだけど、庶民の感覚なのかしら」

 どちらかと言うと、せとみのほうが庶民的なのではないだろうか。
 せとかのほうが品はあるような気がする。

「ていうか、同じ顔じゃないですか」

「それを言うならあなたもよ。同じ顔ならせとみ様のほうがよくなくて?」

「いえ、私はやっぱりせとか先輩のほうがいいです」

「そういうことよ」

 歯切れよく返され、なるほど、と納得してしまう。
 ただ萌実と違い、由梨花はやたらとせとかを敵視しているようなのだが。

「まぁ、花を扱う人に、あの花粉症はあり得ないでしょうけど」

「そういうこと。全くほんとに、花一つで泣き出すなんて情けない」

 いや、それはしょうがない。
 花粉症とはそういうものですよ、と突っ込みたいところだが、心の中にしまっておく。
 最近一人突っ込みが増えた。

「とにかく、そういうわけで、私は先輩の敵ではないです」

「そうみたいね。でもわたくしに油断はなくってよ!」

 び、と人差し指を鼻先に突き付けられ、萌実は再び仰け反った。

「いつあなたがせとみ様に転ぶかは、わからないですものね!」

「ないですって」

「相手があの根暗幽霊ですもの。せとみ様とは雲泥の差の小者がいいと言われたところで、説得力なんてありません」

 負けなくってよ! とライバル宣言し、由梨花は高笑いしながら去っていく。
 その凛とした後ろ姿を、萌実はうんざりと見送った。
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