結構な腕前で!
 部室に入ると、せとかがクロワッサン鯛焼きを頬張っていた。

「これは鯛焼きというよりは、鯛の型取り餡挟みといったほうがいいですねぇ」

「そうだな。別に鯛に拘る必要もないよなぁ」

「鯛焼きの状態のままクロワッサンにするのは難しいんですかねぇ」

 どうでもいい分析を垂れながら、男二人でクロワッサン鯛焼きを頬張る姿はなかなかシュールだ。

「お、萌実ちゃん、遅かったねぇ」

 せとみが意味ありげに笑う。
 こいつは危機に陥ったら、自分だけとっとと逃げるタイプだな、と萌実は冷たい目を返した。

「はい、どうぞ。甘いものを食べないと、脳みそも上手く動きませんからね」

 せとかが萌実にクロワッサン鯛焼きを差し出す。
 お茶菓子とも言えないお菓子の場合は、懐紙と菓子きりなど使っていられない。
 普通にそのままかぶりつく。

「ちょっと油っこいよなぁ。まだあったかいからいいけど、これ冷めたらちょっとキツイかもな」

「そうですね。せとみも、買ったら全速力で走ってきてくださいよ。ああ、でもその際振り回してはいけませんよ。結局風で冷めてしまいますからね」

「お前なぁ、人を買い出しに使っておいて、無茶言うな」

「その代わり好きなものを買えるじゃないですか。気に入らないものだと、あなたが帰ってしまうからですよ」

 お母さんと子供か、という会話をしつつ、油っこいというわりには、せとかは鯛焼きを二つ平らげた。

「じゃあ南野さん、食べたら始めましょう」

 点てたお茶を萌実の膝先に進め、せとかが言った。
 今日は部屋に小さな文机が置かれている。

 正座でないといけないので、慣れない萌実はちょと辛いが、やはり図書室ではせとかが気の毒だ。
 しかもいつ何時その元凶が乱入してくるかもわからない。
 ということで、結局部室に落ち着いたのだ。
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