結構な腕前で!
「あの、せとか先輩の勉強はいいんですか?」

「僕は帰ってからやりますよ」

 さらっと言って、せとかは釜の火種を消すと、文机のほうへ移動した。
 萌実もお茶を飲んで、そちらに移動する。

 文机は小さいので、結構くっつかないと二人で使えない。
 うひょ、美味しい、と一人ほくそ笑んでいた萌実だが、肩の触れ合う距離で、せとかが、はっと口を押えた。
 すぐに、くしゃん、とくしゃみをする。

「南野さん、何か、花摘みでもしてきました?」

 えらいメルヘンちっくな質問だ。
 そもそも学校で花摘みもないだろうに。

「いいえ? せとか先輩が苦手なことを、わざわざするはずないじゃないですか」

「いやでも、何か……」

 言いつつ、せとかがまたも、くしゃん、とくしゃみをする。
 そして、やにわにぱっと立ち上がった。
 どかどかと部屋を横切り、障子を引き開ける。

「真行寺 由梨花! 出てきなさい!」

 外に向かって怒鳴る。
 しばしぽかんとせとかを眺めていた萌実は、あ、と気が付いた。

「せとか先輩、違いますよ。あの、ここに来る前に、私が真行寺先輩に呼び止められたんです。何かいろいろ話したので、多分そのときの影響かと」

「何ですって?」

 くるりと振り向き、じ、と萌実を見た後、せとかはもう一度外に顔を突き出して、くんかくんかと鼻を動かした。

「う……ん……。言われてみれば、外の空気に濁りはない」

 咲き誇る花々も、せとかにとってはそれが撒き散らす花粉は『濁り』でしかないらしい。
 情緒もへったくれもない。

 それにしても、凄い感知能力だ。
 萌実は由梨花に触れたわけでもないのに。
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